継続的契約に関する基礎知識と注意点

継続的契約とは

継続的契約という言葉についてはあまり馴染みがないかもしれませんが皆様の会社でなら、例えば、製造業であればある商品を得意先に継続的に納品していることや製品前の材料を継続的に納品している場合などが該当します。

 

製造業でなくても継続的に印刷・製本をするなど企業間の取引ではほとんどが継続的契約に該当するかと存じます。

 

これらは継続的製造物供給契約や継続的売買契約、継続的役務提供契約など表題になっている場合が多いです。

 

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継続的契約における問題事例

継続的契約においては、事業経営において安定的なやりとりが実施できる利点がある反面、未払金等が発生した場合にはいつの間にか多額の債権に発展してしまうリスクもあります。今回は、実際に発生したご相談内容に合わせた事例をご紹介します。

問題事例①~供給者の出荷停止~

継続的契約においては相互の信頼関係が前提となっており一回きりの契約とは別途特別な規制を受けることがあります。

私共東大阪事務所においては特に中小企業集積地であり、製造業が多く集積されているためこの継続的契約が問題になることが多々あります。

例:AはBと材料の仕入れ契約をしているところ、仕入れ先Bが来月から単価を倍にしてくれないと納品できないというような無茶な主張をして事実上取引関係を拒絶するような(多くは大手が中小企業に対して高圧的に主張する事が多いのですが)事態があります。

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継続的契約の構成・性質

このような理不尽な主張に対する対応策については継続的契約の構成・性質を検討しなければなりません。
継続的契約については多くは製造物供給契約や商品供給契約など基本契約が存在し、さらに個別契約が締結されることが通常です。

基本契約とは、その契約関係の大綱を定めたもので、個々の契約(個別契約)の締結を予定して結ばれる総括的内容の継続的契約です。

基本契約の取引条件は、その都度特約しない限り、個別契約の取引条件となるのですが、契約当事者は当然に個別契約の締結義務を負うわけではありません。

個別契約は「A商品を50個・納期1ヶ月後」など具体的な権利義務を決める契約です。

ただ個別契約については契約書を作成することの方がまれで、大体見積書を出して了解を得る、メールFAXで発注書をだす等、簡易なやりとりで成立していることの方が大多数です。

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継続的契約の類型

継続的契約は以下の類型に分類できます(中田裕康教授著「継続的売買の解消」p473)

【1】包括的な継続的売買契約から直接具体的な供給義務が発生するもの
【2】具体的供給義務は個別契約の成立によって発生するもの
 (ア)個別契約は被供給者の一方的意思表示により成立するもの
 (イ)個別契約は被供給者の申込と供給者の承諾により成立するもの
  ①形式的には供給者の承諾が必要であるがすでに形骸化しており,被供給者の意思表示によって成立するのと同視しうるもの
  ②個別契約の成立には供給者の現実の承諾が必要であるが,供給者は特段の事情ない限り承諾する義務を負うもの
  ③個別契約の成立には供給者の承諾が必要であり,供給者は個別契約の申込があったときには誠実に交渉する義務を負うが承諾義務までは負わないもの

問題事例①の検討

冒頭の仕入れ先BからAに対してなされた「来月から単価を倍にしてくれないと納品できない」というような無茶な主張について上記類型を用いて検討してみましょう。

例えば、発注側A(被供給者)が通常注文書をFAXすれば仕入れ業者B(供給者)が何ら応答せずとも納期に納品されるような取引が継続していたのであれば上記(イ)①に該当します。

そうすると従前の単価における個別契約が成立していると考えられるためBの倍額の単価要求は新たな個別契約の申込みに過ぎないという事になります。

すなわち、この場合AB間においては旧単価に従い商品を供給する個別契約が成立しているためAは旧単価に基づいて発注すれば良くBの新たな個別契約を受諾する義務はありません。

逆にBは旧単価に基づく材料の供給義務を負っており、これに従ったAの発注を拒めば契約違反(債務不履行責任)に基づく損害賠償責任、具体的には供給停止に基づく逸失利益の損害賠償責任を負うことになります。

参考裁判例

裁判例においても、継続的契約において正当な理由なく取引を停止した当事者に、債務不履行責任を認めたものがあります。

ア 大阪地裁昭和47年12月8日   【事案】
原告:供給者X (流し台用シンク製造業者) 被告:被供給者Y (流し台製造販売者)   XとYはシンクの継続的取引契約を締結した(期間の定めなし)。   しかし、XがYの代金支払い遅滞を理由に3か月にわたり出荷制限、その後取引停止した。   Xが代金支払い請求をしたところYは出荷制限及び取引停止の債務不履行により損害を被ったとして損害賠償請求権による相殺を主張した。   keizoku4   【判断】 Yの代金支払遅滞はXの納品の遅れによるものであり違法はない。   よって,Xの出荷制限及び取引停止について債務不履行がある。   本件基本契約は個別的売買契約の申し込み・承諾を義務づけられるものと解され,取引停止は継続的取引契約上の債務の違法な不履行に該当するとして,Yの損害賠償請求による相殺の抗弁を認めた。

この裁判例では供給停止の違法性について、期間の定めない継続的売買契約における被供給者Yの中心的義務である代金支払の債務不履行は、Xの供給の遅れという相当の理由が有り違法性を有しないとしています。

これは仮に代金支払いの遅滞が違法な債務不履行にあたる場合には供給停止が違法な債務不履行でないことを示唆するといえます。

当該裁判例に照らして問題事例①について考えると、事例の契約は類型イ①に当たるところ、供給者が「単価を倍増しない限り今後供給しない」として取引を停止した場合、特に被供給者に代金支払いの遅滞等の事情もないので、裁判例におけるように代金支払いの不履行の違法性を検討するまでもなく、供給者の取引停止は債務不履行となるでしょう。

イ 東京地裁平成3年7月19日
  【事案】
原告:被供給者X(医薬品等販売業者)とする。 被告:供給者Y(医薬品等製造業者)とする。   XとYとは医薬品の継続取引契約(1年ごとの期間・更新の約定有り)の下取引をしていたが,Yが供給停止したためXは逸失利益の損害賠償請求を求めた。   これに対してYはXとの取引が採算に合わないことを理由に解約申し入れしたと主張した。   keizoku5   【判断】
Yの解約申し入れの事実を認めず,更新期限である1年分の逸失利益の賠償を認めた。

この裁判例では供給停止に基づく損害賠償請求が問題となっており、期間の定めのある契約に関して参考になります。

問題事例①で仮に契約の期間・更新期間の定めがあれば、取引停止の時期から当該期間までの取引で得られたはずの利益を逸失利益として、債務不履行に基づく損害賠償請求が可能です。

問題事例②~供給者の解除~

例えば。。「AはBと『Bから材料を仕入れたうえ、加工した製品をBに独占的に売る』という継続的契約を締結した。

ところがAが納品しようとしたところ、Bは製品の買取価格を従前よりも低く提示し、この価格でなければ受領しないと一方的に通知してきた。Aは従前の価格での受領をBに求めたが応じないので、仕方なく第三者に製品を売却した。

Bは独占契約違反であるとして契約の解除を主張してきた。」

このように事実上取引関係を拒絶したうえで、相手方の契約違反を促して解除に持ち込むという事態もままあります。

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継続的取引の解除の制限

このような理不尽にも思える解除は法的に制限されないのでしょうか?解釈上、解除には以下のような制限があると考えられています。

契約解除には「特段の事情」が必要

そもそも継続的契約においては性質上当然に相当期間継続して取引することが予定されており,当事者間の信頼関係を基礎として成立しています。殊に,不動産賃貸借契約や雇用契約といった一定の継続的契約においては,民法や借地借家法においてこれらの契約の終了について更新拒絶や解約申し入れを制限する規定が設けられており(借地借家法6条・28条)、賃貸借契約解除について信頼関係の破壊を要求したり(最判昭和39年7月28日)、雇用契約において解雇権濫用法理により制限する等(最判昭和50年4月25日)、法令上・判例上も契約の継続性に配慮され一定の制約が課されている次第です。

そのため,形式的に解除原因に当たる事実がある場合でも「背信的行為と認めるに足りない特段の事情」がある場合においては解除権は発生しないものと解するべきであるとされています(裁判例:札幌地方裁判所昭和63年4月4日)。

期間の定めのある継続的契約

特に継続的契約に期間の定めがある場合には期間の定めのない契約と異なり、期間自体合意の対象となっているのであるから,期間中は一方的に解消されないという期待は保護する必要が高いと考えられます。

そこで,期間の定めのある場合の解除が認められるのは,例えば単なる債務不履行では足りず相手方の代金不払いなどの重大な債務不履行,信頼関係破壊行為,信用不安などやむを得ない事由ある場合に限定すべきであると考えられています。

参考裁判例

継続的契約の解除を巡る過去の裁判例においても、解除等による契約の解消については厳格に解されています。

ア 札幌地裁決定昭和63年4月4日   【事案】
新聞販売店である原告(債権者)が,被告(債務者)新聞供給会社に対して新聞販売店の地位確認の仮処分申立事件である(契約期間の定め有り 自動更新条項有り)。   原告が重篤な傷害を負い原告の妻らが販売店を承継して事業継続していたが承継から約8ヶ月後被告が承継を否定して,契約上の義務違反(購読者名簿,配達順路帳等必要な書類を作成常備,求められれば提示する義務)を理由に解除した。   keizoku7   【判断】
①業務承継後の供給継続により、業務承継について被告の黙示の承認があった。
②継続的契約について形式的解除原因がある場合でも背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には解除権は発生しない。   ⇒原告の業務に順路帳等なくても業務に支障はない,被告において業務承継前に前記帳簿類に特段関心を示していない。⇒背信的行為はないので解除権は発生しない。

この裁判例では,問題事例②と同じく継続的契約条項に違反する事実がありました。しかし、被告が事業承継について相当期間問責しないまま供給を継続していたことをもって,黙示の承認があったとしています。

また,裁判例では被告が契約条項に基づく解除の主張をしていますが,契約上の形式的解除原因に該当する事実があったとしても継続的契約の義務の本質的部分に関わらない該当事由については信頼関係破壊がないとして解除権は発生しないとしています。

イ 東京地方裁判所昭和36年12月13日   【事案】
供給者原告がX。被供給者被告がY。 ゴルフ靴製造業者であるXは継続的製造物販売契約(期間の定め無し)をYと締結しXの製品の9割をYに売却してYが総発売元として販売していた。Yは自社製品ゴルフ靴も製造販売していた。 Yが自社製品の値下げを行ったためにXも値下げを余儀なくされたとして、XはYの背信行為を理由に契約を解除した。Xの手形金請求に対してYは逸失利益の損害賠償請求による相殺を主張した。   keizoku8   【判断】
裁判例のような継続的取引契約においては,契約の存続を著しく困難ならしめる不信行為無い限り,一方的な解除はできない。   Yの自社製品の値下げは自由競争の範囲内であり不正競争とは言えないので解除原因を構成しない。

この裁判例は供給者による解除であり,売買契約の本質的債務である売買代金に直接影響する自社製品値下げを被供給者が行っていることが問題とされました。しかし、裁判例では不信行為と認めず解除原因構成しないと判断しました。

このように,本質的債務に関する不信行為でも必ずしも信頼関係破壊とは評価されません。

継続的契約は期間の定めある契約場合も多く、期間内の継続は前提とされ当事者の期間継続への期待が尊重されるので、期間の定めのある継続的契約においては信頼関係の破壊があったかはなおさら厳格に判断されます。

ウ 大阪高裁昭和59年2月14日   【事案】
被控訴人(原告):供給者X(学習百科事典の販売委託者)。
控訴人(被告):被供給者Y(同販売受託者 委託販売業者)。   XとYとはXの商品である学習百科事典の他の販売店への販売委託を目的とする期間の定めない継続的販売委託取引契約を締結し,商品の供給をしていたところ,YはYと同様Xの委託先である委託販売業者について倒産のおそれがある等虚偽の事実をその取引先に述べ高い手数料を提示して顧客を奪い,Xの商品の競争商品の販売代理店の会に加盟して販売促進に主要な役割を担い,Xの社員を引き抜き勧誘したり,Xの取引先にXが倒産する旨述べて競争商品の取引を勧誘する等行為を行った。   Xは再三Yに上記行為をやめるように申し入れたがYは応じなかったのでXは商品発送を停止した上で契約を解除した。   Yは商品供給停止が債務不履行に該当するとして損害賠償請求による相殺を主張した。   keizoku9   【判断】
期間の定めない継続的売買契約においては相当の予告期間を設けた場合は別として,契約を継続しがたい重大な事由が存在しない限り契約を一方的に解除することはできない。   Yの行為は自由競争において許される範囲を逸脱して,Xに損害を与えるものである。本件契約を継続しがたい重大な事由に該当するというべきである。

裁判例は期間の定めない継続的売買契約についての事例です。

より契約の解消が緩やかに認められる期間の定めない継続的売買契約ですら,常軌を逸脱する事情をもってはじめて「契約を継続しがたい重大な事由」に該当するとしており、期間の定めある契約では解除の要件となる「継続しがたい重大事由」はなかなか認められないと考えられます。

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