<事案>
D社は特殊技術を持つ潜水工事を行う会社です。D社の先代社長は、息子であるXとYをそれぞれD社の代表取締役に就任させて跡を継がせました。その後先代社長の相続が生じ、XがD社株の1/3以上を保有し、Yは1/3未満を保有することになりました。
しかし、Xは飲み歩くことが多くなり、会社の仕事をおろそかにするようになりました。Xの行動は、取引先にも知れてしまい、取引先から目に余るということで、今後の取引を差し控えたい旨の話が出てくる始末になりました。
そこでYはXに対して代表取締役を辞任するように申し向けたのですが、それならばということでXから株式の買い取りをするように求められました。
その金額が6500万円という大金であったため、YとXは交渉を重ねていたのですが、暗礁に乗り上げてしまい、Yが疲れ果ててしまいました。仕事も手に付かないという状況が続いていたため、このままでは会社自体が傾きかねないと強い不安を覚え、当事務所に相談に来られました。
<解決に至るまで>
当方でD社全体の持ち株比率を調査したところ、解任することもできそうであったため、それを切り札に交渉することにしました。
まず、Xの主張する6500万円が妥当な額か否かをこちらもでも調査しました。また、さらにD社の経理面やXの動向も調べて、Xが会社資金を無意味に(私的に)使っていないか等を明らかにしました。
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Xの行動に関して経費のつけ回しなどが判明したため、これまでの怠業も含めて、背任にもなりかねないことをXに付きつけました。
そうした交渉を重ねた結果、株式の買取価格は2000万円(4500万円の減額)となり、Xは取締役を辞任することになりました(解任手続きや裁判が不要となりました)。
<解決のポイント>
本件では、未公開株の株価算定という実務上(裁判上)算定根拠が公定されていない問題があり、大きな争いを引き起こしうる素地がありました。また、会社と自然人(会社に対して、人間のこといいます。)が契約主体となることで、税務面での問題(みなし配当課税の問題)にも突き当たりました。
企業法務においては、今回のように法的問題に加えて税務面での問題も解決しなければいけないことが多いです。今回無事解決できたのは、当初と連携してくださっている関連士業の協力に他なりません。
このように、企業法務では法的問題をクリアしても、それが経済合理性に合致していなければ企業として真の解決になりません。それに加えて、社内のパワーバランスを踏まえた上での解決であり、当事務所としても改めて勉強なった事件でした。