1 信用不安とは
「信用不安」とは、取引先の支払い能力に対して懸念が生じた場合をいいます。
取引先がどうもおかしいという場合には貸し倒れのリスクが急激に高まりますので現実に債権回収の方策を検討しなければなりません。
もっとも、信用不安が真実か(相手会社の情報)、自社債権の把握等、情報を収集して回収方法を立案しなければなりません。
2 信用不安の兆候
以下のような事情が信用不安のチェックポイントとなります。
□ ①メインバンクが変更していないか
□ ②ノンバンク・市中金融を利用しだしてないか
□ ③支払いが現金から手形に変更していないか
□ ④支払日の変更、手形サイトの延長・少額支払いの手形がないか
□ ⑤先日付小切手を振り出し始めてないか
□ ⑥不動産登記簿謄本で短期間に担保設定が増えてないか→債権者は個人ではないか
□ ⑦役員クラスの退社はないか
3 情報収集
2の基準(チェックポイント)に照らして、どうも取引先が怪しいぞと感じたら、まずは情報収集からスタートします。
最新で正確な情報があって初めて的確な対応ができます。
集める情報としては大まかに3つ、①取引先の状態、②他社の動向、③自社債権の内容の把握です。
順番にポイントをお話しします。
(1)①取引先の状態について最新情報の収集
取引先の信用不安情報が他の債権者に知れてからでは、遅きに失してしまいます。いかに他の債権者に先駆けて情報をとれるかが勝負です。
そのためには担当者が取引先に足を運んで代表者や取引先担当者と話をして取引先の得意先や仕入れ先などの関係先を把握しておき、不安が生じた場合には関係先に照会確認して次のような情報を入手できるように態勢を整えておきましょう。
|
取引先の営業状況・商売の流れに大きく変わったところはないか |
従業員の様子・在籍者数・構成に変化はないか |
|
在庫が急増急減していないか |
|
メインバンクに変更はないか |
|
高利の金融に手を出していないか |
|
代表者の資産状況に変化はないか |
|
役員や幹部の対応に変化はないか |
これらの裏付け資料として→会社登記簿謄本(役員の異動等を確認)、最新の決算書・資金繰り表(もら得るよう計らう)、民間の信用情報機関を利用しての企業情報取得などがあります。
そして、いよいよ取引先の異変を感じたら、自社債権の保全のため、押さえるべき資産に関する情報収集も欠かせません。
まずは、不動産を調査します。→事業所の不動産の登記簿謄本
次に、押さえる対象になるのは売掛金等の債権です→取引先の販売顧客先、関係銀行の情報(○○銀行○○支店のレベルでよい)
自社商品を販売しているのであれば、先ほどの売買先取特権に備えて→商品の所在販売先に関する情報
保証人を取っている場合は→保証人の上記に関する情報
(2)②他社の動向についての情報収集
また、他社の動向から取引先の状況を推測することもできます。
他社が抜け駆け的に債権回収を図っていることも考えられます。
たとえば、親族の企業にだけ優先して弁済するということはよくあることです。
以下のような事情がないか注意しましょう。
□取引先の大口顧客や仕入れ先が取引を打ち切っていないか
→このような場合、倒産が十分考えられる事態なので早急に取引を打ち切る必要があります。
□他の債権者が取引先の売掛金を担保に取っていないか
→相当信用悪化が進んでいる可能性も否定できません。
□他社だけに優先弁済や担保提供していないか
(3)③自社の債権の内容に関して最新の情報の確認
ア 債権の基本情報の確認
債権額、担保・保証の有無、担保の評価額の確認をしましょう。
→過去に取得している不動産や有価証券は取得時の評価額から大幅に変動している場合があるので時価を再確認する必要があります。
また、信用残高(担保でカバーできない債権額)、支払期限、支払い条件についても確認しておきましょう。
イ 契約書・期限の利益の確認
「期限の利益」とは、取引先が支払期限までは債務を弁済する必要がないことをいいます。
したがって、取引先に信用不安が生じた時点で、法的請求をするには自社債権について期限が到来しているか、取引先の期限の利益が喪失している必要があります。
取引基本契約で期限の利益喪失事由を工夫しておけばこの場面で役立ちます。
4 方針の決定
以上の情報を収集した上で取引を継続するのか、停止するのか方針を決めなくてはなりません。
(1)停止する場合の対応
まずは、既存債権の回収にかかるべきです。回収方法としては①~④の方法を検討します。
①弁済を受ける
支払い期限前でも期限の利益喪失(基本契約による)を主張して早期弁済を受けましょう。
②代物弁済を受ける
お金の代わりに物でもらう方法です。当事者の合意により行えます。
③相殺の準備
①②の方法は取引先の協力が必要でしたが、相殺は当方の一方的通知で実現できるもっとも簡便な回収手段です。
先ほど述べた取引保証金(リベート)を積み立てていれば、この場面で回収に役立ちます。
取引先に債務を負っている場合には自社の債務を支払わずに、速やかに相殺通知を内容証明郵便で出しましょう。
④担保権を実行する
ⅰ 動産売買先取特権
動産を差し押さえて、競売により優先弁済を受けるという手順となります。
ただし、売った動産が買い主の手元にある場合でしか使えないので注意が必要です。
→動産の場所を確認することが重要!
取引基本契約書、見積書、発注書、請け書、納品書、請求書等の証拠となる書類を準備しておきましょう。
ⅱ 抵当権等の担保権
これらの担保権があれば競売の準備に入りましょう。
保証人等の人的担保があるのであれば そちらから回収することを検討しましょう。
ただ、担保権実行の時期については注意が必要です。
なぜなら、担保が取引先の重要な資産である場合には担保権実行を契機として取引先の営業が行き詰まり、破綻の引き金を引くことになりかねないからです。
回収に十分な担保が確保されている場合には、取引先を存続させながら回収できないか検討して、担保権実行は最終手段とします。
(2)取引継続の場合の対応
担保・保証を取得するようにします。可能な限り特別扱いを目指しましょう。
取引の年数・人的関係からやむを得ず取引を続けなくてはならないことも十分あり得ます。
その場合にいわば「裸の債権」のままでは取引先が倒産した場合「一般破産債権」として貸し倒れてしまうのは目に見えています。
担保権がある場合には破産手続きに入ってもその担保物から回収は可能ですし、保証人を付ければその保証人の財産から回収が見込めますので是非担保を取得するべきでしょう。
「担保を提供してくれないと取引継続はできない」と粘り強く交渉するべきです。
取引先も商売が継続できなければますます経営状態が悪化するのですから何とか取引継続を希望するはずです。
その取引継続の条件として担保提供を申し出るわけです。
ただし、保証人を取る場合には、たとえば代表者の妻等、財布が同じになっている者を保証人とする意味はないので会社の役員等、会社・代表者とは別個に資産形成している人間を保証人にしましょう。